私が小学校の登山に参加するための足慣らしに、ペンション仲間一人リィさんにつきあってもらう。観音平から編笠山に向かい、時間を見て適当なところで折り返す予定だった。グリーンロッジを抜け、登山道にはいると直ぐ日本鹿の死体発見!! 奥に頭蓋骨と手前四方に足の骨と毛皮が散らばっている。明らかに何者のかに食い荒らされたようす。昔は八ヶ岳に熊はいないと聞いたけど、今はいるということも聞いている。その死体をしばらく眺めて前に進んだものの、二人とも足取りが重くなる。と、リィさんが「やっぱりここは今日は止めよう」という。
勿論、私も大賛成。そう決めるや否や走って車に戻る。でも、お弁当も作ってきたし、お天気もいいし、このまま帰る気にはなれず、天女山から前三ツ頭へと登ることにする。
こちらにしても駐車場に一台も車はないし、平日のことだし、ほとんど人が入ってないようだ。先ほどの光景も目に新しいし、当たり前の静けさまで異様に感じてしまう。二人とも無口になって、歩いていてもまわりばかりが気になる。水たまりがあるとにおいをかいでみたり、風の音にもびくびくしてみたり。よく考えてみれば山をかえたものの、あの死体のあった山とは尾根続き。それでもモクモクと歩いたので、苦しいのも忘れて前三ツ頭の2364mのピークに着いた。(今思い返すとかなりきつい登りも確かあったように思う。)
ちょっと雲が出てきたこともあり、お弁当も押し込むように口に入れ、早々に下りは始めます。ほんのわずか下ったところで、谷から一陣の風が。「あっ、獣の臭い!」と私が言うが否やリィさんは急な登山道を矢のごとく走り始め、次の瞬間ドターっと両手両足を四方に広げて倒れています。
「だいじょうぶ?」と駆け寄る私のことなど無視して、ムックと立ち上がると痛いのも感じないのか、また一目散に走り出します。もうどうにも止まらないのです。ハアハア、ヒイヒイいいながら私も追いかけます。もう息が続きません。「リィさーーん、もう臭わないよーー」と後ろから叫ぶとやっと止まりました。でもその時はまだ二人とも自分達の行動を笑い合う余裕などありません。とにかく早歩きではあったものの、歩き始めたリィさんに追い着くことができました。その後もしばらく歩くと、風が吹く方向により、また獣の臭いがしてくるのです。その度に臭いに敏感な私は「あっ、臭う!」と口走ってしまい、リィさんはまた走り、私は追いかけるのです。そしてどこをどう走り、どのくらいの時間で下ったのかもわからないのですが、倒れ込むように車に乗り込み、そこで初めて二人は自分達の行動に大笑いをしたのです。
後日青年小屋の竹内さんに聞いたところ、あの日本鹿は行き倒れたのを野犬が食べた散らかした跡とのこと。付け加えて、八ヶ岳にも熊はいるそうです。皆さん、お気をつけて!
*こんな訳で前三ツ頭のピークまでは行ったのですが、登山道の様子や景色のことなどなにも書けません。ごめんなさい。 |